第23章 過去の女
リビングへ戻り、空いた食器をキッチンへと運ぶ。
ローテーブルの下に隠れていたコロが喉を鳴らしながらすり寄ってきた。
「ごめんね。ご飯まだだったよね。」
言葉では言い表せぬ後味の悪さ。
食器棚から猫用の缶詰めを取り出す。
ふと、キッチンのゴミ箱から何かが飛び出している事に気が付いた。
ゴミ箱の蓋を開け、中をのぞき見る。
飛び出していたのは、白い紙袋だった。
中には汚れたプラスチック容器。
神田美咲が作ったと言っていたビーフシチューは、有名レストランからテイクアウトした物だったようだ。
「…捨てて行っちゃ駄目だよ。
手作りじゃないってバレちゃうじゃん。」
そうつぶやきながら、ゴミ箱の奥へと押し込んだ。
凛とした強さと優しさに溢れた女優、神田美咲の一面。
ネコ用の缶詰めを開け、足元に座るコロに与えた。
時計を見ると午後9時。
もうすぐ佐久間さんが帰ってくるだろうか。
お鍋に残っていたビーフシチューを捨て、私は佐久間さんの大好きなカレーライスを作った。