第23章 過去の女
玄関まで神田美咲を見送る。
もうここへ来る事は無いと言ってくれたが…はたしてそれで良かったのだろうか。
先ほどまでの怒りは情へと変わっていた。
もう少し、佐久間さんと話す事は出来ないのだろうか。
それで佐久間さんが神田美咲を選んでしまったら…私は立ち直れないとは思うが…。
わだかまりを抱えたまま20年。
あの時はお互い意地になり、別れを選んだかもしれないが、今ならもしかすると…もう少し穏やかな話しが出来るような気がした。
と言っても、私は当事者ではない。
「あなた、名前何て言うの?」
「…美波です。橘美波。」
「あなたは、絶対に手放しちゃ駄目よ。
仕事も恋も。
欲しい物は全部手に入れなさい。」
玄関のドアが閉まる。
握りしめた手の中には、受け取った鍵。
まるで台風が過ぎた後のようだった。
私の人生に突然現れた神田美咲。
心の中をかき乱すだけ乱して、去っていった。