第23章 過去の女
神田美咲はソファーに掛けてあったコートと鞄を手に取った。
佐久間さんの帰宅を待たず、帰るつもりだろうか。
私にとっては都合が良いが、神田美咲のまとう空気はどこか重く、佐久間さんへの激しい後悔がうかがえる。
もし…私がいなければ、2人は再び結ばれていたのだろうか。
佐久間さんの気持ちは分からないが、一度愛した女性を突き放すようには思えない。
しかし…これは2人の問題だ。
私はただ傍観するしか出来ない。
「鍵、返すから。渡しておいて。」
鞄から取り出した鍵を受け取る。
整った爪に赤色のネイル。
女性としての格の違いを見せつけられたような気分だった。
「あなた、仕事は?」
「え?」
「仕事は何をしているの?」
「私は高校の数学教師です。」
「そう。」