第23章 過去の女
そこまで話し終えると、神田美咲は空いた食器を手にキッチンへと向かった。
シンクに食器を置き、水道のシングルハンドルに手を伸ばす。
食器の中へと貯まる水。
神田美咲の心の中に居座り続ける佐久間さん。
そんな佐久間さんへの断ち切れぬ想いのように、蛇口からは水が流れ続けた。
「私、カレーライスが嫌いなの。」
「…え?」
「俊二、カレーライス好きでしょ?」
「あっ…はい。」
「私はビーフシチューの方が好き。」
だから…ビーフシチューを作って待っていたのかと納得した。
相手の好みよりも自分の好み。
プライベートの神田美咲がどういう人間なのか、何となく分かってきた気がした。
「悪いんだけど、食器洗っておいてくれる?」
「もちろんです。置いておいて下さい。」
「鍋にまだあるから、俊二が帰って来たら食べさせて。」
「分かりました。」