第23章 過去の女
“だからよりを戻す事にしたの。”
そう言いたいのだろうか。
アイヴィーが解散したのは1999年。
私が5歳の時の話だ。
それから20年以上…2人は想い合っていたとでも言うのか。
私の知らない過去の佐久間さん。
この怒りは“嫉妬”なのか。
美しい所作で食事をする神田美咲の全てに憤りを感じた。
「だから…私は嫌わてるの。」
「…え?」
「アイヴィーの解散後、ひどく落ち込んでいた俊二に私が一方的に別れを告げたの。
話し合う事もせずここを出た。
その頃、ちょうど私は映画の主演が決まっていて。
俊二の存在は、これからの仕事へ影響すると思ったの。」
あまりにも身勝手な神田美咲の言葉に、思わずスプーンを持つ手が震えた。
アイヴィーの解散を最後まで反対し続けていたのは佐久間さんだと…以前、愛美先生に聞いた事があった。
アイヴィーの解散で受けた佐久間さんの心の傷は深いものであったはずだ。
繊細で感受性豊かな佐久間さんの事だ。
ひどく憔悴したに違いない。