第23章 過去の女
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「美味しい?」
「あ…はい。」
「そう。」
正直、味など分からない。
こんなにも緊張しながら食事をするのは初めてだ。
ビーフシチューとカプレーゼ。
バケットに赤ワイン。
佐久間さんのために用意したであろう食事。
私が頂いてしまっても良いのか…。
どこか申し訳無い気持ちもあったが、神田美咲と佐久間さんとの“現在の関係”が気になって仕方無い。
こうして神田美咲がやって来たのだ。
よりを戻した。
そう捉えるべきなのだろうか。
「まだここに住んでるなんてね。」
「…え?」
「アイヴィーが解散する1年前…だったかしら。
“一緒に暮らそう”って私が言ったの。
結婚するつもりだった。
でも、アイヴィーが解散して…私は俊二と別れてここを出たの。
その後…直ぐに夫と結婚したから、俊二はひどく傷付いたでしょうね。」
神田美咲はため息まじりにそう笑った。