第22章 スクリーンの中で
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タクシーを降り、マンションのエントランスを進む。
スーツケースを引きずる手には凍傷の後がまだ残っていた。
3日間の入院生活は思いがけない休みとなったが、ベッドでダラダラと過ごしていただけなので、正直仕事をしている方が楽だった。
結局、北海道に5日間もいたのだから、車で道内を一周する位は出来たかもしれない。
しかし、それはまた今度だ。
彼女を自宅へと送り届け、両親に謝罪した。
隣でそれを見ていた彼女の目が少しだけ笑っていた。
「また秘密の旅行に行こうね。」
そう言っているようだった。
佐久間さんには入院していた事を話していない。
心配させたくなかった。
命に別状はなかったのだ。
冬のオホーツク海に飛び込んだという経験はかなり貴重ではあるが、かすり傷を負った位の気持ちしかない。
佐久間さんに会うのは実に1週間ぶり。
まずはあの少年のような眩しい笑顔で「おかえり。」と笑って欲しい。