第22章 スクリーンの中で
「やめて!!!」
そう叫ぶ私の声はもう彼女の心には届かなかった。
眩しい朝の光を浴び、彼女は流氷から海水へと飛び降りた。
まるで大きな魚が跳ねたかのように上がる水しぶき。
長い黒髪が水面に広がって見えた。
「小松さん!!!」
彼女が飛び込んだ場所へと急ぐ。
岸へ打ち上げられた流氷を越え、冷たい海水の中を進む。
幸いにも彼女が飛び込んだ場所は脚が届く程の深さだった。
それでも冬のオホーツク海の水は肌を刺す程の冷たさだ。
それでも彼女は沖へと進んでいく。
コートが水を吸い込み、動く事が出来ない。
しかし、今ここで彼女を見失えば二度と連れ戻す事は不可能だ。
唇の震えが止まらない。
氷をかき分ける指先の感覚などとうに無くなっていた。
こうしていると、初めて彼女と屋上で会った日の事を思い出す。
風にひらりと揺れるスカート。
柵にもたれ、どこか遠くを見つめていた。
艶のある黒髪に白い肌。
切れ長の瞳。
長身で顔は小さく、モデルのように手足は長い。
そんな彼女があの日思い描いていたのは、こんな最期ではなかったはずだ。