第2章 高校教師
「数学です。」
「へぇ。俺、こう見えても数学は得意だったよ。」
「そうなんですか。」
「うん。先生も得意だったの?」
「得意って訳じゃないですけど…。
嫌いではなかったです。」
「“嫌いじゃない”?それって“好き”って事?」
いたずらに笑いながらそんな事を聞かれたら、落ち着きはじめていた心が再び動揺した。
平凡で退屈な私の事に少なからず興味を持ってくれているのだろうか。
それは単純に嬉しいのだが、男が喜ぶようなエピソードなど私は持ち合わせていない。
数学が得意だったわけでもなければ、好きだったわけでもない。
“嫌いではない”
私の人生ではその言葉が多用される事ばかりだ。
つまらない人間だと思われるだろうか。
どちらかと言えば男は“夢をつかんだ”側の人間だろう。
お洒落な都会の売れっ子美容師。
男に対してのイメージはそうだった。