第21章 あなたがおしえてくれたこと
「3年前の夏です。
僕と彼女は車で九州へ行きました。
僕も彼女も車の運転が好きでしたので、交代で運転して。」
「…何の話?」
「その時、事故に遭ったんです。
軽い単独事故でした。
運転していたのは彼女の方で。
それから、彼女は車の運転が出来なくなってしまいました。
自信を失った彼女は当時務めていた高校を退職し、書店員になりました。」
「だから…何?」
「君はまだ17歳です。」
「だったら何なの?」
「君にはまだ、色んな可能性があります。
これからいくらでもやり直しが出来ます。」
「…やめてよ、そんな事言うの。」
「いいえ、素晴らしい事です。」
村瀬先生はダッシュボードから取り出したタバコに火を付けた。
運転席の窓を少しだけ開け、タバコをふかす。
私の言葉は、風の音にかき消された。
いつもは車でタバコを吸わない村瀬先生の表情は、とても悲しげに見えた。
今思えば、初めてホテルで抱き合ったあの日も、ベッドの上でタバコをふかす村瀬先生の横顔は悲しそうだった。