第21章 あなたがおしえてくれたこと
最後に二人で観た映画は、身を焦がすような甘いラブストーリーだった。
「今日は家まで送ります。」
「…ホテルは?」
「行きません。」
「どうして?」
「今なら、まだ引き返せます。」
「どういう意味?」
「今日で最後にしましょう。」
ここまで関係を持っておきながら…“まだ引き返せます”とは、あまりにも身勝手な言葉だと思った。
これは別れ話。
映画館の駐車場を出て、車は私の自宅へと向かう。
冗談だと言って欲しかった。
高速道路に出た車はスピードを加速させる。
これは私の気持ちを試すための悪い冗談。
しかし、村瀬先生が冗談を言う人などでは無い事を…私は良く知っていた。
「橘先生は良い先生だと思います。」
「…え?」
「橘先生ならば、きっと力になってくれますよ。」
「どうして、そんな事言うの?」
「結婚するんです。彼女と。」