第21章 あなたがおしえてくれたこと
「私と“あの人”…どっちが大事?」
そう聞いたのは、放課後の視聴覚室だった。
偶然、村瀬先生が視聴覚室の鍵を空けて入っていく姿が見えた。
私は後を追いかけた。
「先生?」
「どうしました?」
「あの…分からない事があって。」
「はい。」
震える声。
そんな私に気付いたのか、村瀬先生は扉の鍵をかけた。
その瞬間、私は村瀬先生に抱きついた。
少し遅れて、村瀬先生の腕が私の身体を包み込む。
学校ではあくまで一教師と一生徒。
そんな暗黙のルールを、私は破ってしまった。
「…好きなんだけど。」
「はい。」
「先生の事、好きなんだけど。」
「そうですね。」
村瀬先生は決して「自分も…」とは言ってくれなかった。
何て“ずるい”人なのだろう。
こうして身体に触れているにも関わらず、私は村瀬先生の心に触れる事が出来ない。