第21章 あなたがおしえてくれたこと
YURIの歌声を聴きながらコーヒーを飲む。
正直…村瀬先生の事は良く知らないが、こんな素敵な音楽を好む人なのだから、きっと心の温かい人なのだと思った。
「あの…。」
「はい。」
「…家に帰りたくなかったのは今日だけではないんです。」
「いつもですか?」
「はい。
うちはもう修復不可能なんです。
だから、普通の家庭なんて諦めてます。
出来るなら帰りたく無いです。」
「そうですか。」
「学校ではクラスの女子に無視されています。
それも…もうどうにかしたいという訳ではないんですけど。」
「そうですか。」
こんな事を話すつもりではなかったが、村瀬先生には話す事が出来た。
心が通じ合えた気がしたから…
ではなく、話す事がなくなってしまえば、私はまたあの家に戻らなければならない。
家だけじゃない。
あの学校に、あの毎日に戻らなければならない。
もう少し。
もう少しだけ。
高速道路を走る車のテールランプを見つめながら、時間が止まってくれる事を祈った。