第21章 あなたがおしえてくれたこと
「小松さん、携帯電話預りますね。」
そう言いながら私の隣へやって来たのは、英語教師の村瀬直紀だった。
「…見てません。」
「見てましたよ。」
赤点で補習…そしてカンニング。
状況があまりにも悪い。
村瀬先生は私の手から携帯電話を取り上げると、「終わったら返しますから。」と言った。
その瞬間、偶然にも着信音が鳴り出し、携帯電話の画面には相手の名前が表示された。
『5万円おじさん』
その文字を、村瀬先生も見ただろうか。
「自分の力で解いて下さい。」
村瀬先生は私の携帯電話を教壇の前の机に置いてしまった。
気が付けば、他の生徒は早々に単語テストを終えて帰ってしまった。
視聴覚室に村瀬先生と二人きり。
気まずさからか、一向に解答欄を埋められない。
“5万円おじさん”
早く約束の場所へ行き、行為を済ませ、金を受け取りたかった。