第20章 氷の世界で見た碧さ
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「子供の頃の話が聞きたい。」
日の出が美しいと有名な岬に立つホテル。
窓際の席で、外に置かれた松明の明かりを眺めながら夕食を済ませた。
流氷岬に2時間も居た彼女の頬は赤く、手袋をはいていたはずの指先は感覚が無くなるほどだった。
再び車の中で黙り込んでしまった彼女。
夕食の前に温泉で温まり、お揃いの浴衣を着た私達はフフッと小さく笑い合った。
そんな彼女が夕食の席で言った言葉。
彼女が望むならと、幼い頃の話をしてはみたが、特に面白いというような話は何一つ無かった。
母の居ない家で1人、勉強に明け暮れるだけの毎日。
犬を拾った話には少し興味を持ってくれたようだが、そもそも私には彼女を楽しませてあげられるような話術など無い。
それでも、食事を終えて部屋に戻る途中、彼女は「楽しかった。」と、言ってくれた。
この旅は無駄ではなかった。
そっと胸を撫で下ろす。
彼女はきっと、私が思っている以上に“大人になろう”としいるのだと思う。