第20章 氷の世界で見た碧さ
「…帰りたくない。」
そうつぶやきながら、彼女は問題集を鞄へとしまった。
帰りたくない気持ちは充分理解している。
あの家に彼女の居場所は無い。
もう少しだけ…あと1年。
あと1年耐えてくれさえすれば、私は彼女があの家を出る手助けをしようと思っている。
…彼女が望んでいればの話だが。
「先生は帰らないの?」
「私ももうすぐ帰るよ。」
「次のバス…20分後。」
彼女は掛時計を見ながらぶっきらぼうにそう言った。
タイミングが悪かったようだ。
教室を追い出し、バス停で20分待たせるのはあまりにも可愛いそうだ。
気が付けばここ数ヶ月、彼女とゆっくり話をしていなかった。
今こうして教室で2人きりになれたのは良い機会なのかもしれない。
彼女と少し…話をする事は出来ないだろうか。
「少し…話さない?」
「うん。」
「じゃあ、20分だけ。」
「良いよ。」
私は彼女の隣の席へ座る。
こうして机を並べているだけで、どこか彼女と対等の関係になれた様な気がした。
教師ではなく、彼女の友人。
久しぶりの感覚だ。