第2章 高校教師
◆
「座ってて下さい。」
「ありがとう。」
男はローテーブルの奥へと腰を下ろした。
近くに置いてあったクッションを手に取り、膝の上にのせる。
その体勢が落ち着くのだろうか。
男はご機嫌な様子でこちらを見ながらにこやかに微笑んだ。
まさかこうして再び二人で過ごす事になるなんてと、私は落ち着きなくスーツの上からエプロンを着けた。
“先生、今日の夕飯って何?”
そんな事を聞かれたら、ご一緒にいかがですか?と言わざるを得ない。
さすが見ず知らずの女の家で夕方まで熟睡し、シャワーを借り、カレーライスを食べていくだけのことはあると感心してしまった。
そもそも男は44歳。
結婚し、子供がいてもおかしくはない。
自宅に帰らなくても良いのだろうか。
それとも独身者か…。
いや、余計な詮索はやめよう。
今考えなければいけないのは、二人で食べる夕食だ。
冷蔵庫を開け、中をのぞき込む。
昨日スーパーで買っておいた魚。
作りおきのおかずが2品。
炊飯器には炊きたてのご飯。
これといって特別な物は何もない。