第2章 高校教師
アパートの階段を上っていると、ふと2階の廊下に人の気配を感じた。
それは私の部屋の前。
宅配業者だろうか。
故郷の北国にいる母は、よく連絡もなしに野菜などを送ってくれていた。
待たせてはいけないと、私は階段を早足で駆け上がる。
しかし、そこにいたのは宅配業者などではなかった。
黒いジャケットに、歩きにくそうな靴。
目深に被ったツバの広い帽子からは、肩まである柔らかそうな黒髪がのぞいていた。
その姿に、思わず顔がほころぶ。
“帽子、絶対返しに来るよ。”
そう言ってはいたが、こんなにも早く来るとは夢にも思っていなかった。
「おかえり。」
「…ただいま。」
まるで主人の帰りを待っていた犬のように、男は顔をクシャクシャにして笑った。