第2章 高校教師
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車窓からの景色がいつもとは違って見えた。
バスに揺られ、家路を行く。
退屈で平凡な当たり前の日常が変わりつつあった。
それは間違いなくあの男と過ごした事によるものだ。
惰性で生きていただけの日々に現れた“非日常”。
ただそれだけの事に心をときめかせられるとは、案外私は単純なのかもしれない。
人は誰しも他人に“認めらたい”という気持ちを持っているものだ。
それはきっと、他人と上手く関わる事の出来ない私にも当てはまる。
亮太と別れてから始まった自己否定の毎日。
そんな毎日で少しずつ失っていった心を、男は思い出させてくれた。
恋ではない。
恋などではない。
もともと男性は苦手だ。
それでも、あの男と過ごした時間はとても穏やかな気持ちでいられた。
名前も知らない。
また会えるのかどうかも分からない。
そんな男はあの日、私という人間を“肯定”してくれたのだ。