第18章 同じ数の月を見ていた
私の言葉を聞いて、田辺先生は「憧れるなぁ。」とつぶやいた。
「それだけ橘先生は生徒の事を思っているんですね。」
「そんな…。」
「いえ、立派です。
まさに僕の求めていた教師の姿です。」
田辺先生は勢い良くグラスのお酒を飲み干すと、キラキラとまぶしい笑顔を向けながら、私の両手を握った。
「橘先生、これからもよろしくお願いします。」
「あっ、はい。」
真っ直ぐな田辺先生の瞳に、ドキドキと心臓は鼓動を早める。
突然の事に動揺し、息苦しささえ感じる。
こんなにも眩しい笑顔で見つめられながら手を握られると…
昼休みの保健室で聞いた愛美先生の言葉を思い出さざるを得なくなってしまう。
“その気が無いなら田辺先生に流されないようにね”
“嫌な事されそうになったらすぐやめてって言うんだよ”
「あっ、すみません。」
「…いえ。」
両手を離してくれたものの、相変わらずまぶしい笑顔を向けてくる田辺先生に耐えきれない。
「あの…そんなに見つめないで下さい。
胸がドキドキして苦しいです。」
おかしな雰囲気には流されない。
私達は言いたい事を言い合える友人関係。
私にも言えた。
そんな妙な達成感を胸に、私はグラスのお酒を飲み干した。