第18章 同じ数の月を見ていた
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「尾崎君は僕が初めて受け持った生徒なんです。」
そう嬉しそうに顔をほころばせながら、田辺先生はビールを飲んだ。
そんな田辺先生を見て、尾崎君はカウンター越しに笑う。
「“家庭教師”なんて必要無いって親とケンカまでしたんですけど、いざ田辺先生が来てみたらめちゃくちゃ面白くて。
俺、酒もタバコも音楽も田辺先生に教えてもらったんです。」
そう懐かしむ尾崎君に、田辺先生は「勉強だって教えてやっただろ!?」とすかさず指摘した。
田辺先生は大学時代、家庭教師のアルバイトをしていたようだ。
大学生の田辺先生は、きっと年下の男の子からしてみれば兄貴的な存在だったのだろう。
人望も厚く、面倒見まで良い。
私に無い物ばかりを持っているなとは思うが、私も田辺先生を慕っているのだから、やはり田辺先生は天性の人たらしなのだ。
「今日はゆっくりしていってくださいね。」
尾崎君はそう言うとキッチンの奥へと入っていった。