第18章 同じ数の月を見ていた
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「ここです。」
タクシーを降り、たどり着いたのは温かみのあるレンガ調の建物だった。
小さな窓からこぼれるオレンジ色の明かりが夜道を照らしている。
木造の重そうな扉。
その店の名前は『トレモロ』だった。
田辺先生の背中に隠れるよう、私は恐る恐る店内へと入る。
おしゃれなお店は敷居が高い。
私のような田舎者が来ても良い場所なのだろうか。
東京という華やかな街に馴染めず、ひっそりと地味に生きてきた私が来ても良い場所だったのだろうか…。
年甲斐も無く緊張してしまった私は、無意識に田辺先生のスーツの袖を掴んでいた。
「尾崎君久しぶり。」
「田辺先生、来てくれたんですね。」
2人は笑顔を浮かべながら再会を喜んだ。
“先生”と呼んでいるという事は…田辺先生の教え子なのだろうか。
短髪の目尻が下がった男の子。
“尾崎君”と呼ばれたその彼は、すぐさまカウンター席へと案内してくれた。