第17章 秋桜が咲くのは湿った土の匂い
「田辺先生はもう学校に慣れましたか?」
「はい。
生徒達もみんな素直で良い子ばかりですし。
先生方にも良くしていただいているので。」
まるでお手本のような答え。
しかし、それは田辺先生の本心なのだと思う。
先生方からはもちろん、生徒達からも田辺先生の評価は高い。
休み時間には女子生徒に囲まれ、昼休みには男子生徒とグラウンドでサッカーをする。
私とは真逆の素敵な先生だ。
「そういえば、橘先生明日の夜は空いてますか?」
「明日…ですか?」
「金曜日なんで、どこかでご飯でもと思いまして。」
「後で愛美先生にも聞いておきますね。」
「いえ、橘先生と2人では駄目ですか?」
「…2人でですか?」
田辺先生とは、愛美先生を交えて時々食事をしていた。
もちろん話題はアイヴィーだ。
初めて“2人で”と言われ驚いたが、男女間の友情が成立している私達だから当然の事とも思える。
「分かりました。いいですよ。」
そう応えた私に、田辺先生は顔をクシャクシャにさせて喜んだ。