第17章 秋桜が咲くのは湿った土の匂い
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「橘先生、最近元気が無いですね。」
職員会議を終え、後片付けをする私へと田辺先生はそう言った。
「そんな事ないです。」と精一杯の作り笑顔を向けるが、田辺先生の笑顔があまりにも眩しく、たじろんでしまう。
そもそも、私は普段からローテンションだ。
田辺先生や愛美先生のようにいつも笑顔で活き活きと仕事をするタイプではない。
元気が無いのはいつもの事。
しかし…田辺先生の言葉通り、最近は特に元気が無いかもしれない。
「生徒の事ですか?」
「いえ。」
「じゃあ、プライベートな事ですか?」
「違いますよ。」
相変わらず相手の懐に入るのが上手い。
一見、詮索しているようにも聞こえるが、きちんと引き際を心得ている。
爽やかな笑顔に優しい口調。
誰かに良く似ている。
きっと私はこのタイプの男性に弱いのだと思う。
それでも田辺先生には異性を感じない。
私には佐久間さんという恋人がいるのだから当然。
田辺先生は同僚であり、初めて出来た“男友達”だ。