第17章 秋桜が咲くのは湿った土の匂い
もう過去の事だから、もう心で決着がついている事だから…名前を口にする事に何も感じないのか。
いや、きっと…彼女はこういったタイプの女性ではないだろう。
「先生、戸惑ってるでしょ?」
「え?」
「困った顔してる。」
また顔色を読まれてしまったが、その通りだ。
彼女にとって村瀬先生は憎むべき相手だ。
彼女の心を…身体をもてあそんだ最低な男だ。
そんな男が好きだった音楽など…私は聴こうとは思わない。
ましてや名前を口にするなど…。
彼女にはどんな意図があったのだろうか。
「小松さんは村瀬先生の事…。」
「まだ好きだよ。」
「どうして?
あんなに苦しめられたんだよ?」
「うん。」
村瀬先生が憎い私にとっては、彼女の言葉が全く理解出来なかった。
あの男を好きでい続ける理由など私には見付けられない。
出過ぎた事とは思うが、彼女には村瀬先生の事を早く忘れてもらいたいと思う。
村瀬先生と出会う前の…純真無垢な彼女に戻ってほしいのだ。