第17章 秋桜が咲くのは湿った土の匂い
「ねぇ、小松さんは何を聴いているの?」
「私は…。」
「って聞いても分からないかも。ごめん。」
「YURIだよ。」
「え?YURIって…。」
「先生と同じ北海道の函館出身の女性アーティスト。」
「うん。名前だけは知ってる。」
彼女の好きな音楽が分かり、少しだけ嬉しい気持ちになった。
あまり自分の事を話さない彼女が教えてくれた大切な事。
忘れないよう、きちんと胸に刻んでおこうと思う。
しかし、そんな私の心とは裏腹に…彼女は泣き出しそうな表情を浮かべ、ポツリとこう言った。
「村瀬先生が…好きだったんだ。」
切れ長の美しい瞳が涙で滲んでいく。
唇を噛み締めているのは、彼女なりの強がりか。
返す言葉を見付けられない私は、「そうなんだ。」と応えると黙りこくってしまった。
「村瀬先生が車でよく聴いてたの。」
「そう。」
「CD借りて…私も聴くようになって。」
彼女の口から村瀬先生の名前が出てきたという事は…一体何を意味しているのだろうか。