第17章 秋桜が咲くのは湿った土の匂い
彼女が何か言いかけた気がし、片耳だけイヤホンを外す。
「先生、何聴いてるの?」
少しぶっきらぼうな口調。
しかし、私なんかに興味を持ってくれた事は単純に嬉しい。
彼女の瞳を見つめながら、出来る限りの笑顔で応える。
「the IVYってバンドの新しいアルバム。」
「へぇ。先生、前にもそのバンドの事好きだって言ってたもんね。」
「うん。アイヴィーが歌ってるドラマ主題歌、調べてくれたもんね。」
「そうだっけ?」
彼女はイヤホンを片方外し、話を続けてくれた。
「音楽聴いてるとさ、まわりの声が聞こえないの。
噂話も、傷付くような言葉も。
だから、学校でも家でもずっとイヤホンで音楽を聴いてる。」
彼女は今も、クラスどころか学校全体で孤立していた。
そんな彼女が見付けた自分を守る唯一の術。
何て痛々しいのだろう。
そこまでしてでも、退学の道を選らばずに在学を決めた彼女は立派だと思うが、無理だけはして欲しくない。
正直、2学期になってからの彼女は成績も上がっていた。
喜ばしい事ではあるが、どこか無理をしているように思えてならない。