第17章 秋桜が咲くのは湿った土の匂い
ふと、背後に人の気配を感じた。
放課後の屋上。
ここへ来るのは彼女しかいない。
振り返ると、そこにはしかめ面の彼女が立っていた。
こうしてきちんと彼女と顔を合わせるのは久しぶりだ。
昼休みの保健室へ来る事もなく、最近は放課後の屋上に姿を見る事もなくなっていた。
以前言っていた「…私に構わないで。」の言葉。
今は距離を置いて見守るべきと思い、あえて彼女には関わらない様にしていた。
しかし、彼女を忘れた事など一度も無い。
久しぶりに見た彼女の顔は、ほっそりと痩せてしまった様に見えた。
それでも相変わらずの美少女だ。
彼女は何を言うわけでもなく、少しの距離を置いて私の隣へやって来た。
柵にもたれ、どこか遠くを見つめている。
まるでドラマのワンシーン。
切れ長の美しい瞳に夕日が映る。
言葉を交わす事のない私達。
その理由は、彼女の耳にもイヤホンが付いていたからだった。