第17章 秋桜が咲くのは湿った土の匂い
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キッチンに立ち、コップの水を飲み干す。
久しぶりに飲んだ酒のせいか喉が渇いていた。
先ほどまでのにぎやかな空間が嘘の様な静けさ。
今日も佐久間さんは仕事で遅くなるそうだ。
ロサンゼルスでレコーディングをしたNEWアルバムの制作も大詰めとなっていた。
今は新曲が聴ける事が楽しみで仕方ない。
一人のファンとして、NEWアルバムの完成を待ちわびている。
ふと、鞄の中で携帯電話が鳴った。
短い着信音。
メッセージが届いたようだ。
急いで鞄から携帯電話を取り出す。
もしかすると佐久間さんからの急ぎの連絡かもしれない。
しかし、画面に表示されていたのは田辺先生の名前だった。
『今日はありがとうございました。
今度は二人で食事に行きたいです。』
職場の同僚は友達ではない。
付かず離れず、必要最低限の付き合い。
しかし、愛美先生と友達になれた様に…田辺先生と友達になれる可能性はあるのだろうか。
私にとって初めての“男友達”。
『こちらこそ、ありがとうございました。
是非、食事に行きましょう。』
何度も何度も打っては消すを繰り返し、私は田辺先生へそう返信した。