第17章 秋桜が咲くのは湿った土の匂い
「連絡先、教えて下さい。」
田辺先生は酒のせいもあってか、甘えるような口調でそう言った。
「あっ、はい。」
私はとっさに鞄の中から携帯電話を取り出す。
こうして同僚の男性教師から連絡先を聞かれるのは初めての事だった。
職場の同僚は友達ではない。
そう思い、付かず離れず必要最低限の付き合いを心掛けてきた。
プライベートな話など一切した事が無い。
いや、それ以前に私は男友達すらいない。
「ありがとうございます。」
「いえ…。」
「僕、橘先生にはすごく親近感があるんです。」
「え?」
「やっぱり同じ北海道出身だからですかね。」
「…ありがとうございます。」
「いえ、僕の方こそありがとうございます。」
田辺先生は嬉しそうに携帯電話を握り締めた。