第17章 秋桜が咲くのは湿った土の匂い
◆
腕時計を見ると午後9時。
愛美先生と田辺先生はこれから二次会へ向かうと言う。
他の先生方も、今日は珍しく参加する様だ。
帰るのは…私と、まだ子供が小さい女性教師だけ。
どうやら田辺先生の人懐っこい性格は、先生方の心を掴んでしまった様だ。
人望が厚いというのは素晴らしい事。
努力をすればどうにかなるという物でもない。
田辺先生は天性の人たらし。
先ほどからあまり会話へ入る事がない私にも、田辺先生は当たり障りの無い話題をふってくれる。
「橘先生は、もう帰っちゃうんですか?」
「あっ…はい。」
「もっとお話したかったです。」
「いえ、明日も学校で話せますよ。」
「そう言うわけではなくて…“学校以外”の話をしたいなと思ったんです。」
「プライベートな話…ですか?」
「もちろんです。」
田辺先生はスーツのポケットから携帯電話を取り出す。
一体何をするつもりなのか。
田辺先生は携帯電話の画面をタップし、アプリを起動させた。
そのアプリとは、私が佐久間さんや高杉さんと連絡を取るために使用しているメッセージアプリだった。