第17章 秋桜が咲くのは湿った土の匂い
◇◆◇
「田辺先生もアイヴィーのファンなの!?」
愛美先生は興奮気味に田辺先生へと詰め寄る。
ささやかではあるが、居酒屋の個室にて田辺先生の歓迎会が開かれた。
新年会や忘年会でいつも利用している居酒屋。
瞳を輝かせる愛美先生とは対照的に、私はテーブルの端で黙々と焼き魚を食べていた。
「田辺先生って歳いくつ?」
「僕は34歳です。」
「って事は小中学生の頃からのファンって事?」
「いえ、僕は完全に後追いで。
高杉さんのソロ曲が好きで、アイヴィーも聴くようになったって感じです。」
先ほどから“アイヴィー”という言葉が聞こえてくるなとは思っていたが、まさかここで“高杉さん”の名前を聞く事になるとは思ってもいなかった。
もちろん、愛美先生には佐久間さんや高杉さんとの関係を打ち明けてはいない。
佐久間さんはまだしも、高杉さんが実の父親であるなど、私自身もまだ消化しきれていない問題だ。
誰に話すつもりも無い。
今はまだ、ひっそりと私の胸の中だけに留めておきたい。