第17章 秋桜が咲くのは湿った土の匂い
「そんな目で見ないでよ。」
「え?」
「私ってそんなに“哀れ”?」
「そんな事…。」
「先生、すぐ顔に出るからさ。」
哀れんだ目で彼女を見てしまっていただろうか。
彼女は遠くを見つめたまま黙り込んでしまった。
そんな彼女の心を癒す言葉など…私に思い付くわけがない。
ただこうして隣で同じ景色を見る。
何て無力なのだろうと、胸がキリキリと痛んだ。
「学校…辞めると思った?」
「…うん。」
「大丈夫。辞めないから。」
「本当?」
「うん。本当。
だから、もう心配しなくても良いから。」
彼女はそう淡々と話す。
その声には全く覇気が感じられない。
「…私に構わないで。」
戸惑う私の横をすり抜け、彼女は屋上を後にする。
退学の意志が無いという事を確認出来たのは良かったが…はたしてそれは彼女の本心なのだろうか。
彼女の美しい切れ長の瞳。
2020年9月7日。
この日、彼女の瞳から光が消えた。