第16章 ウラオモテ●
「橘先生、お忙しいのに学校の中を案内して下さってありがとうございます。」
「いえ、これも仕事ですから。」
「あっ、そうですか。仕事…ですか。」
職員室までの廊下を歩く。
気の利いた言葉を選べず申し訳ないとは思うが、私も初対面の男性と二人きりになり緊張している。
田辺先生はどこか…今まで出会ってきた教師とは雰囲気が違う。
言葉が穏やかで笑顔も多い。
小さな事にも反応し、礼を言う。
そして、教師という仕事に希望を持っている…様に見える。
「橘先生って、出身はどこなんですか?」
「私は北海道です。」
「え?北海道ですか?北海道のどの辺ですか?」
「函館です。」
「函館ですかぁ。僕、網走なんです。」
同郷である事を知った田辺先生は、嬉しそうに顔をほころばせた。
何て人懐っこいのだろう。
いや、年上の男性に対し“人懐っこい”は失礼か。
「網走は流氷が見られますもんね。」
精一杯の笑顔で、私はそう応えた。