第16章 ウラオモテ●
「視聴覚室はこちらです。」
「あっ、ありがとうございます。」
引き戸を開けると、田辺先生は律儀に礼をした。
夏休みもあとわずかとなった8月の終わり。
新しい英語教師として、田辺先生はこの学校へと赴任してきた。
年齢は30代前半か。
背が高く、笑顔がまぶしい男性だ。
…村瀬先生とは正反対。
そう思ってしまうのは私の個人的な恨みからだろう。
彼女を…小松さんを傷付けたあの男だけは絶対に許せない。
瞳を輝かせながら教室を見てまわる田辺先生の姿を眺めながら、私は村瀬先生への怒りを思い出していた。
「何か、緊張します。」
「すぐに慣れますよ。」
「2学期からで…生徒達にうまく馴染めるか心配で。」
「大丈夫ですよ。」
村瀬先生は退職の道を選んだ。
詳しい事は知らないが、この学校から姿を消した。
当然の報いだ。
しかし…この事を彼女はまだ知らない。
数日後に迎える始業式。
そこで村瀬先生の退職と田辺先生の赴任が報告されるだろう。