第16章 ウラオモテ●
クチュクチュと唾液の絡まる音がいつもよりも大きい。
それはきっと、佐久間さんがわざとに音を出しているからだと思う。
舌先や唇を絡めながら、耳で聴くその卑猥な音がたまらなく好きだ。
これから始まる甘くて激しい時間へのサウンドエフェクトのようなもの…。
「ボタン、外してくれる?」
「…はい。」
黒いチェックのシャツ。
それは以前、高杉さんが送ってくれたスタジオの写真に写り込んでいたシャツだ。
あの時はもう二度と触れられないと思っていた。
しかし…佐久間さんは今、こうして私の手の届く場所にいる。
触れようと思えば触れられる。
抱き締めようと思えば抱き締められる。
それ以上の事も…今の私には出来てしまう。
当たり前の事の様に思っていたが、全ては“特別”な事だった。
“特別”な事を積み重ねて生きていた。
愛しい愛しい私の恋人。
ボタンを外し終えると、佐久間さんはシャツを脱ぎ、私の身体を包み込むように覆い被さった。