第16章 ウラオモテ●
「良い匂い。」
「あ…カレー作ったんです。」
「いや、カレーの匂いじゃなくて。」
「え?」
「美波の匂い。」
顔を上げた私の首筋に、佐久間さんはそっとキスをくれた。
佐久間さんの唇の感触に、思わず身体が跳ねる。
そんな私の新鮮な反応が面白かったのか、佐久間さんは何度も何度も私の首筋にキスをした。
何てマイペースな人なのだろう。
これじゃまるで、飼い主との再会を喜ぶ犬だ。
フワフワの黒髪を優しく撫でる。
ちぎれんばかりに降り続ける尻尾が…見えたような気がした。
「お腹…空いてますよね。
ご飯にしますね。」
「いや、良いんだよ。」
「カレー食べたいって言ってましたもんね。」
「うん。でも、まずは美波とこうして抱き合う方が先。」
重い荷物をリビングへと残し、佐久間さんは私の身体をフワリと持ち上げ、寝室へと向かう。
「まだ…シャワーも浴びてません。」
「俺も。」
「出来れば綺麗にしてから…」
「良いの、美波はいつも綺麗だから。」
佐久間さんは、慌てふためく私を寝室のベッドに降ろし、身に付けていたエプロンをそっと脱がしてくれた。