第16章 ウラオモテ●
玄関のドアが開く音が聞こえた。
当たり前の事だったはずの事も、今はとても新鮮に感じる。
廊下を歩く音。
リビングのドアが開いた瞬間、私は嬉しさのあまり一瞬意識が飛んでしまっていたかもしれない。
「ただいま。」
「おかえり…なさい。」
顔をクシャクシャにさせ、佐久間さんは満面の笑みを見せた。
その表情に、私の顔もほころぶ。
荷物を床に起き、腕を広げる佐久間さん。
その腕の中に、私は迷わず飛び込んだ。
「会いたかったよ。」
「…私もです。」
「もうどこにも行かないでね。」
「…はい。」
甘くスパイシーな香り。
少し舌足らずな優しい口調。
いつもよりも、きつくきつく抱き締められた。
自然と頬を流れる涙を見せぬよう、佐久間さんの胸へと顔を埋める。
しかし、そんな私の涙に気付いたのか、佐久間さんは「泣かないで。」と笑いながら優しく髪を撫でてくれた。