第16章 ウラオモテ●
佐久間さんのマンションに着き、玄関のドアを開ける。
広すぎる玄関。
傘立ての傘。
いつも佐久間さんが履いていた、先の尖った歩きにくそうな靴が一足。
たった2ヶ月間の事だったのに、ずいぶんと長い間ここを離れていたような気がした。
懐かしい匂いに思わず頬が緩む。
またこの場所で佐久間さんと生活が出来る事が嬉しい。
今度はもっと、料理を頑張りたい。
今度はもっと、上手にシャツにアイロンをかけられるようになりたい。
今度はもっと、佐久間さんの大好きな車に詳しくなりたい。
今度はもっと…佐久間さんと丁寧に向き合いたい。
もう、私達を遮る物は何も無い。
自分の気持ちを偽る必要はもうないのだ。
寝室に行き、白い寝具が敷かれたベッドへと寝そべる。
天井の模様、照明の形。
全てが懐かしく感じた。
目を閉じれば、甘くスパイシーな香り。
まるで隣に佐久間さんがいるようで…胸が熱くなった。