第15章 ひとつだけ
「俺、絶対嫌だよ。」
「高杉は相手が俺じゃなくても嫌なんだろ?」
「そうだよ。
誰が相手だって嫌だよ。
美波に手を出す奴は全員ぶん殴ってやりたいよ。
サクちゃんには分からないかもしれないけど、娘ってそれだけ可愛いんだよ。」
テーブルに置かれたショッピングバッグを見つめ、高杉はため息を漏らす。
早織さんとの離婚後は一度も美波の話をした事はなかったが、心の奥底では常に娘である美波を想っていたのだろう。
会いたくて、会えない。
抽象的ではあるが、そんな解釈をも出来る歌詞が増えたのも離婚後からだ。
「もう嫌だよ。
サクちゃんの顔なんか見たくないよ。」
そうぼやきながら、高杉はスタジオを出て行く。
高杉との確執を抱えたまま、日本に帰るのだけは絶対に避けたい。
高杉は俺にとって、親友であり仕事仲間であり家族だ。
どうしても美波との関係を認めてもらいたい。
それは自分のためでもあり、美波が望んでいる事でもあるのだから。