第15章 ひとつだけ
「俺、高杉の事大好きだから。
大好きだから、野球も初恋も手放せた。
だけど、美波だけは違うんだよ。」
「やめてくれよ。
やっと手の届く所に戻って来たんだ。
もう離れたくないんだよ。
美波は俺にとって、たった一人の娘なんだ。
女なんかたくさんいるじゃないか。
美波じゃなくたっていいだろ?」
「美波じゃなきゃダメなんだよ。
俺にとって美波は、たった一人の女なんだ。」
「何だよそれ?」と、高杉はテーブルに突っ伏してしまう。
出来る事ならば、高杉を苦しめるような事はしたくない。
しかし、俺も引くわけにはいかない。
美波は俺にとって、たった一人の女。
その言葉が全て。
楽しい夕食も
深い眠りも
癒しの朝も
刺激的な夜も
愚かな嫉妬も
美波がいなければ何もなかった。
この心の高鳴りも、美波がいなければ感じる事が出来なかった。