第15章 ひとつだけ
「ねぇ、サクちゃん?」
「ん?」
「帰国したら…その靴、美波に渡しておいてね。」
スタジオの扉から顔をのぞかせ、高杉は口を尖らせてそう言った。
いたずらに笑ういつもの高杉の姿に、そっと胸を撫で下ろす。
嫌だ嫌だと言いつつも、娘である美波の色恋に口を出す事は出来ないと分かっているのだろう。
娘である美波の人生。
決して、父親である高杉の人生ではないのだ。
「俺、絶対邪魔しに行くから。」
「いいよ。」
「毎日夕食食べに行くから。」
「うん。楽しみにしてる。」
見つめ合い、ふふっと笑い合う。
立場は違えど、俺達が美波を大切に想う気持ちは変わらない。
帰国したら、すぐに美波のもとへ行こう。
まだ見ぬ美波の恥ずかしそうな笑顔を思い浮かべ、胸の鼓動を感じた。
【ひとつだけ】おわり