第15章 ひとつだけ
「サクちゃん、ありがとう。」
「ちょっと話があるんだけど。」
「どうしたの?」
空気を察してか、マネージャーの月島は席を外してくれた。
ロサンゼルスに来てから、こうして高杉と二人きりになるのは初めてだった。
毎日タイトなスケジュールながらも、メンバー四人で修学旅行のような時間を過ごしていた。
仕事で来た事すら忘れてしまう瞬間さえあった。
しかし、今日はこれからの“俺達”の事をきちんと話そうと思う。
“俺達”とは、もちろん美波と俺の事だ。
「さっき、美波に電話したんだ。」
「え?」
「戻って来て欲しいって伝えた。」
「いや、待ってよ。
美波はこれからも俺と暮らすんだよ。」
「高杉、美波に自分が父親だって事話してないだろ?」
「…何だよ、急に。」
「さっき美波と電話で話してて、おかしいなと思ったんだ。」
高杉は意外と感情が顔に出やすい。
the IVYのボーカリストとしての高杉誠は完璧なロックスターだが、プライベートの高杉は人間味溢れる普通の男だ。
まるでイタズラがばれてしまった子供のような表情を浮かべ、高杉は頭を抱えた。