第15章 ひとつだけ
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スタジオに戻ると、高杉がニヤニヤと携帯電話を見つめていた。
テーブルに置かれたショッピングバッグ。
レコーディングの合間をぬって買い物にでも出掛けていたようだ。
「サクちゃん、お帰り。」
「ただいま。何か嬉しそうだね。」
「美波に似合いそうな靴があってさ。
あいつ、俺に似て身長のわりには足が小さいんだよね。」
高杉は嬉しそうに笑いながら、再び携帯電話の画面へと視線を落とす。
ロサンゼルスに来てからというもの、高杉は美波に毎日メッセージを送っているようだ。
俺のメールには返信してくれない事もあるのに、娘の美波の事となると話は別のようだ。
スタジオの隅に置かれたエスプレッソマシーンでコーヒーをいれる。
どうやらスタジオにいるのはマネージャーと現地スタッフのみだ。
純平はいつものように古着を見に行ったのだろう。
令志は身体作りのためのランニングか。
コーヒーを2つ。
高杉の横へと腰を下ろした。