第15章 ひとつだけ
美波と過ごす時間はとても心休まるものだった。
それは、美波の控えめでありながら、しっかりと芯があるその性格のせいでもあるが、何よりthe IVYのギタリストである俺を知らないという事がとても都合が良かった。
the IVYのギタリスト、佐久間俊二としてではなく、一人の男として接してくれた。
気付いた時には、俺は美波に夢中になっていたのだと思う。
俺の留守中に、高杉と美波が鉢合わせてしまった時は全てを話すべきかと悩んだ。
しかし、それは俺の口から言うべき事ではないという結論に達した。
いや、俺は美波を失いたくなかった。
高杉が父親だという事を知った美波が、俺達から…俺から離れていくのではないか。
俺の勝手なエゴだったと、今は思う。
言い訳にしかならないが、美波と高杉と三人で夕食を食べるのはとても楽しい時間だった。