第2章 高校教師
「もしかしたら…中庭に落ちてるかもしれませんよ。
私も一緒に探しますよ。」
「いや、いいよ。
もう時間もないから。」
「大切な物じゃないんですか?」
「そういう訳でもないんだ…。」
鏡を見つめる男の横顔は明らかに困っていた。
美容師という職業柄なのだろうか。
常に完璧な容姿を求めているように見えた。
必要最低限の化粧に楽な髪型しかしない私には何とも理解し難い。
帽子などなくても男は十分、素敵な大人の男性に見えた。
「ねぇ、帽子借りてもいい?」
「…帽子ですか?」
「何でも良いんだけど。」
「何でもって言われましても…。」
「本当に何でも良いんだ。」
そう言われ、私は寝室のクローゼットの中から黒いニット帽を取り出す。
近所のコンビニへ行く際、寝癖を隠すためによく被っているニット帽だ
普段からお洒落にあまり興味のない私の持ち物などこの程度。
いくら何でも“都会の美容師さん”には不似合いだろう。