第14章 正しい答え
「起きてた?」
右耳にピタリと付けた受話口から、そう笑う佐久間さんの声が聞こえた。
「起きてますよ。」
「良かった。久しぶりだね。」
「はい。」
瞳を閉じれば、顔をクシャクシャにして笑う佐久間さんの姿が浮かぶ。
少し舌足らずで穏やかな口調。
マイペースでどこかつかみ所がない。
そんな私の愛しい人。
今までの傷付いていた日々が嘘のように、私の胸は心地好い感情に満ち溢れていた。
きっと…私を苦しめる事が出来るのが佐久間さんならば、喜ばせる事が出来るのも佐久間さんなのだ。
佐久間さんがいなければ“何もなかった”私の人生は、今こうして再び激しい恋へと突き進もうとしている。
「こっちは今…午前10時です。」
「そっか。」
他愛もない会話でさえも、今はとても愛しい。
しかし、私にはもっと伝えるべき事がある。
突然、姿を消した事への謝罪。
そして、その理由…。
それでも、佐久間さんを異性として愛してしまった事。
しかし、大事な時ほど言葉は出てこない。