第14章 正しい答え
ポケットから携帯電話を取り出す。
時刻は午前10時。
…ロサンゼルスは前日の午後6時。
佐久間さんはまだスタジオにいるのだろうか。
先ほど高杉さんから受け取ったメッセージには『スタジオにお化けが出たw』の文字とスタジオの写真が添付されていた。
いかにも高杉さんらしい。
しかし、私を怖がらせようとしているのならば、それは逆効果だ。
写真の片隅に写り込んでいたチェックのシャツ。
あれは紛れもなく佐久間さんの物だ。
写真を何度も拡大した。
そこにいるであろう佐久間さんを想像し、胸を高鳴らせながら。
こんなにも…私は佐久間さんに恋をしているのだ。
せめてもう一度だけ声が聞きたいと、アドレス帳から佐久間さんの名前を探す。
少し舌足らずで穏やかな声。
顔を見ずとも笑っている事が分かるあの声。
私がこの世界で一番大好きな…佐久間さんの声。
携帯電話の画面に表示された佐久間さんの名前。
発信ボタンを押す事が出来ないのは、これが最後の電話になるかもしれないという予感からだ。
「今までありがとう。」
そう言って、私は佐久間さんの前から姿を消す。
シナリオは出来ていた。
それなのに、発信ボタンを押す事が出来ない。
きっと私は…まだ心のどこかで“ハッピーエンド”を期待しているのだと思う。