第14章 正しい答え
着替えを済ませ、母は居間へと戻ってきた。
疲れた顔に薄化粧をし、長い黒髪を一つにまとめている。
白いブラウスを身にまとった母は、ため息をつきながら私の横へと腰を下ろした。
「…仕事行くの?」
「うん。
バイトの娘に任せてきちゃったから。」
「今日くらい休んだら?」
「そんなわけにはいかないよ。
自分の店だから。」
「でも…」
「仕事してるほうが気が紛れるの。
一人でいると…辛くて。」
そう涙を浮かべる母の横顔を、私はただ黙って見ているしかなかった。
私にとっては厳格な祖父であったが、母にとっては最愛の父だ。
そんな…最愛の父を亡くした喪失感。
その痛みは計り知れない。
正直、こればかりは分からない。
父親という存在を知らない私には、父親を亡くすという事の大きさが分からない。
私にとって…それは佐久間さんという事になるのだが、佐久間さんへの想いは…やはり異性への愛情だ。
残念だが、私には母の痛みを“全て”理解して受け止めるという事は不可能なのだ。