第14章 正しい答え
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2日後…高杉さんは本当にギター1本と小さな鞄を持ち、ロサンゼルスへと旅立っていった。
カプチーノを片手に玄関を出る高杉さんの笑顔は眩しく、やはり私はthe IVYのボーカルリスト、高杉誠のファンなのだと確信した。
「ずっと一緒に暮らそう。」の言葉は、高杉さんなりのプロポーズの言葉だったのだろうか。
あの日、自宅に戻ってからも高杉さんはどこか上機嫌だった。
もしあれがプロポーズならば、私は返事を保留にしてある状態という事になる。
「Yes」でもなければ「No」でもない。
何も答えずにナイフを手から滑り落としたのだ。
私はあれからも、高杉さんのマンションでコロと生活をしている。
正直、自分以外に誰もいない部屋でコロと静かに過ごすのは気楽で良かった。
狭くて古いあのアパートでの生活を思い出す。
もう戻る事の出来ない…あの部屋。
高杉さんからは毎日メッセージが送られてきた。
食べ物の写真や、地元で出会った楽器の写真。
スタジオの壁にボールを当て、跳ね返ったボールをバスケットゴールに入れるといった動画まで。
それを見るのが最近の小さな楽しみでもある。
きっとこれは、私が心の整理をするために与えられた時間なのだと思う。
高杉さんと佐久間さん。
二人と物理的な距離を取り、冷静に今後を考えるための大切な時間。